
新しい後見制度の方向性
成年後見制度改正の議論が進んでいます。今年の5月~6月頃には後見制度改正に向けた中間取りまとめ案が確定され、来年の通常国会に改正法案が提出される予定です。少しずつ、新しい後見制度の方向性が見えてきました。
今回は、法制審議会において意見の一致を見た点を中心に紹介します。
〇 利用開始場面
現在の後見制度は、本人の判断能力が不十分であると認められれば制度を利用開始できるという仕組みとなっています。
これに対し、改正後は、本人の判断能力が不十分であることに加え、後見制度を利用する必要性が求められることになります。
例えば、後見人に与えられる代理権について、現在は後見制度が開始されると同時に、後見人に広範な包括的代理権が付与されているのですが、そうではなく、後見人に与える代理権を個別に吟味することになります。例外的に、個別的な代理権ではなく、包括的な代理権を付与する場面を残すべきではないかという議論もあり、まだ結論を見ていませんが、仮に包括的な代理権を付与するとしても、相当限定的な場面に限られることになります。
また、代理権を付与するためには、原則として本人の同意が必要となります。本人が同意能力を欠く場合には、同意を求めることはできませんが、その場合に代理権を付与するためには、より高い必要性が求められます。
現在は、判断能力低下の程度に応じて、後見・保佐・補助の3類型が設けられていますが、3類型は廃止され一元化されるか、包括的な代理権を付与する類型(今の後見に相当)と個別的な代理権を付与する類型の2類型に変更される見通しです。「後見」という呼び方も変わるかもしれません。
〇 終了場面
現在の後見制度は、本人の判断能力が回復しない限り、本人が亡くなるまで利用が継続されます。この点は、後見制度を利用する必要性が無くなったにも関わらず制度利用の継続を強いられるとして批判がみられる点です。
先ほど、後見利用の開始場面において、制度利用の必要性が求められるようになると紹介しましたが、その裏返しとして、改正後は、判断能力に変化がなかったとしても、後見制度を利用する必要性がなくなった場合には制度を終了できるようになります。例えば、不動産の売却など、特定の行為をするために後見制度の利用が必要になったけれども、日常的な財産管理等は福祉的なサービスで対応できるというような場合が考えられます。
制度利用の必要性については、定期的に見直しの機会を設けるため、後見制度は有期制となります。期間満了の際には、更新の有無が検討されることになる見込みです。
〇 後見人の交代
現在の後見制度では、後見人が交代するためには、後見人が辞任するか、後見人に不正行為等があったとして解任するかしかありません。
これに対し、解任事由には該当しない場合であっても、裁判所の判断により円滑に交代することができる方策が必要であるという議論がなされています。今後は、現在の辞任・解任事由以外にも後見人の交代を認める制度が導入される見込みです。
法制審議会の議論状況は法務省のホームページからもご覧いただけます。ご関心がある方はアクセスしてみてください。
執筆者プロフィール
弁護士 杉山 苑子